線維筋痛症患者が直面する医療拒否の問題

線維筋痛症患者が直面する医療拒否の問題 」

に関するアンケート調査結果 2021年2月実施

(Facebook患者グループでのアンケート:対象129名中、診療拒否経験有りの回答23名, 延べ件数33件)

線維筋痛症は医療界でも一般社会でも認知度が低く、患者医療従事者双方が啓発活動を行なっている。2000年代以降、医学部のテキストにも線維筋痛症という疾患名が載せられ、保険適応にもなった。

しかし、臨床現場では痛みに苦しむ患者を門前払いしたり、たらい回しにする風潮が止まっていない。アンケートの回答から見ると2000年頃〜2009年より2010年以降の方が診療拒否の件数が明らかに増えている。  

また、身体の痛みを訴える患者に対し「嘘」「仮病」「頭が普通では無い」などと暴言を吐き患者の尊厳を傷つける、医師としての倫理観を疑ってしまうような案件も多く見受けられる。

アンケートの質問

質問 線維筋痛症で診療拒否をされたことがある方にお尋ねします。

①何科で(例、膠原病科、整形外科、ペインクリニック、リハビリ科、歯科、など)

②どんなことを言われましたか

(気のせいだ。線維筋痛症などという病気は存在しない。死なないから大丈夫、、、など)

③西暦何年ごろのことでしょうか

④症状の一つに微熱があります(ガイドラインに書いてある)が、コロナ発生以降それを理由に診療拒否されたことがありますか。

アンケート集計結果

 *診療拒否の発生の年代

  2000年頃〜2009年   3件

  2010〜2021年     30件

(延べ件数)

1. 診療拒否をされた科とその件数(延べ件数)

  整形外科        11

膠原病科・リウマチ科  7

精神科・心療内科    3

神経内科        1

ペインクリニック    2

学会関係の医院     3

整骨院         1

内科          1

痛みセンター      2

 産婦人科        1

歯科          1

2. 診療拒否の理由として患者が言われたことなど

整形外科

 ・気のせい、検査で何も出ないから詐病だろう

・若いのだから運動しなさい(運動して症状悪化)

・太り過ぎのせいだから運動しなさい

 ・こんなに痛がるのは頭のせい、私は頭は診ない

 ・クラークを通じて予約を取るも、担当の医師は「私は線維筋痛症は診ない」と断る

 ・居住する市内全ての整形外科が電話で診療を拒否

 ・線維筋痛症に効果のある薬や治療法を自力で 調べて医師に提案するが、受け入れても

  らえない

 ・線維筋痛症と言われたことのある患者はうちでは受け付けない

 ・詳しい検査も無しに全部老化のせいにされた

 膠原病

 ・線維筋痛症の可能性はあるが、説明がつかないから精神科に行け

 ・複数の膠原病科内でたらい回しにされ、ようやく主治医を見つけた

 ・気の毒だからと診断名を隠された

・大学病院で診断はされたが診療を断られ他病院の紹介もしてもらわれず、他疾患の医

  師のツテで転院した

 

神経内科

 ・線維筋痛症慢性疲労症候群などの症状は皆あなたの演技だ

 

内科

 ・効果を感じていた点滴を惰性になるからと打ち切られた

 ペインクリニック

 ・痛いと思うから痛いんだ

 ・動きなさい、動かないと足が腐る

 精神科、心療内科

 ・副作用がキツい薬を断り、鎮痛剤の新薬の治験も断ったら診療終了にされた

 ・私は線維筋痛症は診ないと断られた

 

 整骨院

 ・保険内診療を断られた

 痛みセンター(集学的に慢性疼痛を治療するとする厚生労働省のプロジェクト)

 ・線維筋痛症は専門外と言われ、リハビリのみ受けている

 ・窓口で暗に診療を拒否された。

救急外来

 ・夜間救急外来で、線維筋痛症患者は救急車を呼んではいけないと何も処置してくれず。

  実際は重度の脱水状態だった

 ・痛みで意識消失するような状態で救急車を呼んだが何軒も拒否されたらい回しに合う。

  線維筋痛症という病名を告げると拒否されているようだ。

3 コロナ蔓延期の問題

 ・線維筋痛症の随伴症状に慢性の微熱があるが、その為に出勤拒否や診療拒否が起きてい

  る

 ・持病として線維筋痛症があるのに、電話診療ではなくて、通院を強要される。

4 線維筋痛症患者が他の疾病の治療も拒否される

 ・注射後の痛みを訴えたが線維筋痛症のせいにされた。実際には神経腫の痛みだった

 ・婦人科で子宮内膜症の診療を断られた

 ・歯の被せものが取れたので歯科に行ったが、線維筋痛症を理由に治療を開始してもらえ

ず数ヶ月間も放置されている

*考察

① 対象者中、診療拒否経験有りと回答した人の割合は約18%、延べ件数では20%以上

となり約5人に1人の患者が診療拒否を受けたことになる。

全ての疾患に関する診療拒否の発生件数や割合はデータがないが、18%〜20%以上はかなり高いとの印象を抱く。そして、診療拒否の理由は慢性的でかなり高度な身体的苦痛を持つ患者に取っては許容し難いものが多い。又、度重なる診療拒否は病気の早期発見早期治療の道を閉ざす。

② 3のコロナ期の問題は線維筋痛症が「痛み」の病気だということは周知されていても、数多くの随伴症状があることが知られていないことを示唆している。平熱が常に37℃台という線維筋痛症患者は多い。

③ 4の問題は線維筋痛症という病気が知られるようになった結果起こってきた事例だと思われる。「線維筋痛症患者は何でも大袈裟に痛がる。」という偏見が蔓延しているのだろう。

実際は線維筋痛症の痛みが酷すぎて、当事者は他の痛みや痛みのある疾病に気付きにくいのことの方が多い。

腸炎に気がつかず切った時には盲腸はボロボロだった

親知らずを抜いたら根しか残っていなかった。

痛みで歯を食いしばり奥歯が割れても気がつかない

骨折しているのに気がつかなかった

などの例がある。

*まとめ

コロナ禍や大災害の時期を除けば、体の不調や苦痛を訴える患者を門前払いすることは社会的な倫理に反するであろう。たとえ希少な難病で自分は診られなくても、他科受診などの提案をするなどしてもらいたい。患者は激痛による極限状態で病院の戸を叩く。その状況で断られる、しかも頭のせいにされるなど、どれほどの苦痛か理解していただきたい。

線維筋痛症という珍しい病気も先人達の努力でなんとか知名度は上がってきたようだ。*1 しかし、同時に偏見や誤解も膨らんでいる。線維筋痛症ゆえに他の疾患の発見や治療が遅れることがあってはならない。

(1)膠原病科医師だけでは無く、他科の医師への周知を高めたていただきたい。特に痛みを持つ人がまず頼りにする整形外科への周知や、整形外科から膠原病科への連携は必要性が高いと感じられる。

(2)医療教育現場で、もっと深く線維筋痛症を教えることが必要だと思われる。そして専門医の育成が必要である

(3)痛みセンターのような集学的疼痛治療は線維筋痛症の治療に最も必要だと思われるし、センターが県に最低1つ設置され、線維筋痛症患者を積極的に受け入れていただきたい。

私たち患者は医療従事者を糾弾しているのではありません。コロナ以前から国の予算の削減、人員の削減、国立医大病院の法人化などで医療現場が逼迫している状況もよく知っています。しかし、患者が現状の問題を発信して、医療従事者とのコミュニケーションをうまく図ることができれば、現場の負担はかえって減ると思うのです。

受診拒否やたらい回しは重症者を増やし、医療費の増大や現場の混乱を招くだけです。

*1

リウマチ医の間での認知度は研究班発足の2003年から2016年の間に約30%から90%以上に上がった。( 村上正人「線維筋痛症の診断と治療」2016 )

線維筋痛症患者が抱える特殊な問題」

特定疾患に関しては未指定難病が多数あり、どの難病の患者も生活に困難を抱えている。その中で、どうして線維筋痛症なのか、線維筋痛症の抱える特殊な問題点をまとめました。

① 24時間365日続く激しい全身疼痛がある。痛み止め多剤服用や長期使用の問題

線維筋痛症の重症者の痛みは末期癌患者レベルである。しかし、治療法が確立しておらず診療できる専門医が全国で数名しかいないため、患者が診療拒否を受けたらい回しにされ*1対処療法にすらたどりつくのが困難だ。軽症のうちに適切な処置を受けられれば寛解するケースもあるが、多くは重症化し、若くても寝たきりになることもある。

また治療が始められても、既存の痛み止め(専門薬)では痛みを緩和する力が弱く、他の痛み止め、安定剤との併用になり、多剤服用に陥る。また本当に痛みを抑えるには癌性疼痛を抑える薬(劇薬、医療用麻薬ただし自費治療)などの強力な薬を長期間続けることになってしまう。随伴症状の不眠治療薬胃腸薬なども併せると1日40〜50錠以上の薬を飲むケースも珍しいことでは無い。

麻酔科で神経に麻酔薬を打ち麻痺させ、3時間ぐらい痛みを止める治療法もあるが、何十本もの麻酔薬を頻繁に打つことの健康への影響は調査研究がまだ行われておらず、大いに懸念される。

これだけ多くの薬を飲んでも使用しても重症者の痛みは緩和されていない。症状は進行していくばかりだ。

このような激しい痛みに長年晒され、座位や伏臥位で過ごす事が多くなると、筋力が低下しフレイルのような状態になるが、整形外科の診療拒否が大変多くて、リハビリを受けている人はごく少数である。寝たきりをなるべく減らすという国の健康政策に反する。

QOLの低下どころでは無い人生の破壊

未成年の患者は教育を受ける機会を逸したり、進学の望みを絶たれるケースが多い。どうしても欠席が多く学習の進度が遅れがちになり、クラブ活動も諦める事になってしまう。また教員の線維筋痛症への周知が行われておらず、適切な指導や援助が少ないようだ。

働き盛りで発症すると失職し、復職への援助が得られない。線維筋痛症という名前ゆえに休職手当や傷病手当出されなかったケースがある。(医師が診断書を書かなかった)子育て家事にも支障をきたす。自分も身体が不自由なのに、介護を背負い行き詰まるなど生活が困窮してしまう。あらゆるライフステージで患者が1人でどんなに努力しても克服しようの無い壁に行く手を遮られている。

各県に必ず難病相談センターが設けられ、行政と患者を繋ぎ、福祉サービスや就労支援が患者に提供されるが、線維筋痛症は断られたというケースをよく耳にする。またはその存在を知らない患者が多い。

③ 患者数の謎

難病指定への請願は今まで何度か行われてきた。しかし実現していない。実現への最も大きな障害は厚労省ガイドラインに書かれた「推定患者200万人」という数字である。指定難病は本邦で患者数が10万人以下という規定があるからである。しかし、この200万という数字は現在否定されつつあり、多くの臨床医が実際に診療を受けている患者数は数千〜数万と述べている。

この200万人の根拠となった長野県での住民調査の追跡調査をし、有病率訳2%の正当性を洗い直してもらいたい。前回(約10年前)に線維筋痛症と診断された住民はその後通院服薬確定診断を受けたのだろうか。住民調査が始まる一年前、2003年の全国のリウマチ科膠原病科への調査では、実際に治療を受けた線維筋痛症の患者数は3000人台だった。

200万人も患者がいれば、私たち患者が病院に行けば必ず他の患者にも会うはずだが私はまったく経験したことがない。そして医師達は多くの患者を診察し経験値をあげているはずだ。それも無いから、たらい回しが一向に減らないのである。患者数200万という数字には大いに疑問がある。もう一度研究班が立ち上げられ、正確な患者数を調査していただきたい。

④ 医療と福祉の谷間に落ちた疾患。

線維筋痛症という疾病概念が成立したのが1990年代と比較的新しく、医療関係者の間で知名度が低い。名前を知らないから、治療法が分からないからと診療拒否をされるケースが後を絶たない。

・痛みで失神して救急車で運ばれてもどこの病院にも拒否された。

・血液検査、画像に異常が無いので仮病扱いされた。

・気のせい、心のせいにされて精神科にまわされる。

等々。

やっと主治医ができても余程の早期発見でなければほとんどの患者は痛みだけではなく徐々にADLの低下が進んでしまう。握力が一桁、歩くことが困難で杖をついていても車椅子になっても、身体障害者手帳を書いてもらえない。一人暮らしで身動きができなくて10日間も入浴できなくてもヘルパーも介護も自費でないと利用できない。

二次的な鬱病障害年金障害者手帳が下りるケースは多いが、患者のニーズには応えていない。身体障害者手帳が交付されてほしい。線維筋痛症の重症患者には電気車椅子が必要だ。現状では患者が自費で購入したり、一部の医師が診断書を書いているがごく少数である。

⑤ 決して原因不明の奇病では無い。

研究段階ではかなり原因が解明されているようだ。中枢神経のシステム的障害であり、遺伝子的な傾向を持つ人が発症しやすい。通常のMRIでは無理だが、シンチグラフィーによる画像では線維筋痛症患者の脳の特定の部位に血行不良、萎縮が見られる。

既存の画像検査や血液検査に異常が見られないだけであり、マーカーは存在するが見つかっていないだけで決して気のせいや仮病では無いのだが、専門外の臨床医の中には最新の知見にまだ接した事がない者も多く、現場で患者が不当な扱いを受けている。

リリカやサインバルタ線維筋痛症の専門薬として保険適用されたが。効果を感じる人の方が少ない。これらは炎症を抑えるのではなく、神経に直接作用するため、目眩、吐き気、など副作用は多大である。それに加え代謝が落ちるので肥満、心臓肺水腫、目の調節機能低下などもある。更なる研究と新薬の開発が望まれる。

かつては客観的判断は難しいとされた痛みの評価も、ペインビジョン*2の普及や脳検査での痛みの診断が進むことにより可能になるであろう。

⑥ セイフティネットというものが存在していない。

指定難病のうちALSなど16疾患は、65歳以下でも介護保険が使え、ヘルパー、デイケア、などが利用でき、電動車椅子もレンタルできたり補助金が出る。医療費も上限付きだが援助されて、またその疾患の研究も進んでいく。

特定疾患にならないのなら、せめて福祉サービスというセイフティネットが存在していて欲しい。現在研究途上の未指定難病は全てそうだろうが、二重三重にふるい落とされ、ほとんど見えない存在になっている。介護保険法、難病法、障害者総合支援法、手帳という制度全てから篩い落とされる線維筋痛症はその典型であるが、診療拒否に会う率は突出して多いのでは無いだろうか。 

1*診療拒否の問題については

別添資料「線維筋痛症の診療拒否問題」に関するアンケート調査結果を参照のこと

*2

「PainVisionを用いた評価をどのように治療につなげているか」

(三木 俊 1 , 阿部 倫明 2,3

1東北大学病院生理検査センター 生理検査部門

2東北大学医学系研究科腎高血圧内分泌科

3東北メディカル・メガバンク機構 地域医療支援部門

2018年5月15日

DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689200484)